はじめに:「自社開発に行けば幸せ」という巨大な勘違い

「SES を脱出して、自社開発企業に行きたいです」 「SIer は古いから、モダンな Web 系に行きたいです」
キャリア相談の現場で、私たちは判で押したようにこの言葉を聞きます。しかし、実際に念願の自社開発企業に転職したエンジニアから、半年後にこんな相談を受けることも少なくありません。「技術が固定化されていて飽きた」「ビジネス側の要求が強すぎて、コードを書く時間が減った」「思ったより年収が上がらない」
実は、どの業態にも「光」と「闇」があります。 重要なのは、世間のイメージに流されることではなく、 「今の自分のスキルフェーズ」と「業界の構造」がマッチしているかを見極めることです。
本記事では、 SIer、 SES、自社開発、フリーランスというエンジニアの 4 大キャリアについて、求人票には決して書かれない「残酷なリアル」と「正しい選び方」を徹底解説します。
参考データ
経済産業省:IT 人材需給に関する調査(2030 年の人材不足予測)
IPA(独立行政法人情報処理推進機構):DX 白書 2023(企業の IT 投資動向)
【SIer】「古い・堅い」は過去の話?年収 1,000 万を狙える安定の正体

SIer(システムインテグレーター)は、顧客のシステム開発を一括で請け負う企業群です。かつては「3K(きつい・帰れない・給料が安い)」などと揶揄されましたが、現在はその様相が大きく変わっています。
メリット:圧倒的な「給与水準」と意外な「技術キャリア」
実は、SIer は「最も確実に稼げる」場所の一つです。
大手 SIer であれば、20 代で年収 600 万円
30 代〜40 代で 700〜800 万円は通過点。課長・部長クラスになれば 1,000 万円を超える企業も珍しくありません。金融・官公庁などの巨大プロジェクトが多く、景気変動に強いのも特徴です。
「テックリード」や「アーキテクト」といった、管理職にならずに技術を極める
スペシャリスト職を用意する企業が増えており、キャリアの多様性が広がっています。
デメリット(リアル):依然として残る「管理偏重」と「ガチャ」
しかし、すべての SIer がホワイト化したわけではありません。特に配属される部署やチームによっては、Excel での進捗管理や、何年も前のレガシーな技術(古い Java や VB など)の保守運用を強いられる可能性があります。また、「顧客の IT リテラシー」に振り回されるケースもあり、理不尽な仕様変更や納期調整に追われるストレスは依然として存在します。
向いている人:安定志向かつ、大規模システムを動かしたい人
- 社会インフラなどの大規模システムに関わりたい人
- コミュニケーション能力を活かして、顧客折衝や PM を行いたい人
- 長期的な安定と、着実な年収アップを望む人
【SES】「底辺」と揶揄される業界の、意外な「使い倒し方」
SES(システムエンジニアリングサービス)は、客先に常駐して技術支援を行う業態です。ネット上では批判の対象になりがちですが、実はキャリア戦略上、非常に有効な「踏み台(ステップアップ)」になり得ます。
メリット:未経験からの「ジャンプアップ」と「技術のつまみ食い」
SES の最大の強みは、「案件ごとに環境を変えられること」です。
例えば、「1 年目は Javaでバックエンドの基礎を学び、 2 年目は Vue.js のフロントエンド案件へ、 3 年目は AWS 構築へ」といったキャリアチェンジが、転職をせずに実現可能です。 また、自社開発企業への入社ハードルが高い未経験者や微経験者にとって、実務経験を積むための「入り口」として最も間口が広いのも特徴です。
デメリット(リアル):商流(下請け構造)による「年収の限界」
問題は「商流」です。 大手 SIer から直接仕事を受ける「2 次請け」までなら良い経験が積めますが、3 次、4 次請けとなると、単価が中抜きされ、年収は 300 万円台で頭打ちになります。さらに、そうした下層の案件は「誰でもできる単純作業」であることが多く、スキルも身につきません。 また、帰属意識が希薄になりやすく、「自分はどこの会社の人間なのか?」と孤独を感じるエンジニアも少なくありません。
向いている人:やりたいことが未定の人、実務経験を最速で積みたい人
- まだ特定の技術やプロダクトに固執していない人
- いろいろな現場を見て、自分に合う技術を探したい人
- まずは「実務経験 2 年」という市場価値を手に入れたい人
【自社開発】キラキラしたイメージの裏にある「泥臭い現実」
Web 系メガベンチャーや SaaS スタートアップなど、自社プロダクトを持つ企業。「自由な働き方」「最新技術」というイメージが強いですが、現実はシビアです。
メリット:プロダクトへの「愛」と「裁量権」
「このボタンの配置を変えれば、ユーザーの離脱率が下がるのでは?」 といった改善提案を、エンジニア自身が主体的に行えるのが最大の魅力です。自分の書いたコードが、ダイレクトに売上やユーザーの声として返ってくるため、**「事業を作っている」という強い手応えを感じられます。
デメリット(リアル):「技術力だけ」では評価されないシビアさ
要するに、自社開発企業は「コードを書くこと」ではなく「事業を伸ばすこと」を目的にしています。 どれだけ綺麗なコードを書いても、売上に繋がらなければ評価されません。逆に、技術的には枯れた(古い)技術であっても、ビジネススピード優先で採用し続けることもあります(PHP の古いバージョンを使い続けるなど)。 また、一度入社すると「その会社の技術スタック」に固定されるため、もしその技術が廃れた場合、市場価値が下がるリスクもあります。業績が悪化すれば、給与カットやレイオフ(解雇)もあり得ます。
向いている人:ビジネス視点を持ち、特定のサービスに没頭できる人
- 技術そのものより、「サービス」や「プロダクト」が好きな人
- 変化が激しく、正解のないカオスな環境を楽しめる人
- 自分で課題を見つけ、解決まで自走できる人
【フリーランス】自由と高単価の代償。「35 歳の壁」とスキル切り売り
会社に縛られない自由な働き方として人気のフリーランス。年収 1,000 万円も夢ではありませんが、そこには「見えないコスト」が存在します。
メリット:会社員比 1.5〜2 倍の「即金性」
正社員なら会社が負担している社会保険料や販管費などが、すべて自分の報酬(売上)になります。
そのため、同じスキルレベルでも、正社員からフリーランスになるだけで手取りが 1.5 倍〜2 倍になることは珍しくありません。 週 3 日勤務やフルリモートなど、案件さえ選べれば働き方の自由度も高いです。
デメリット(リアル):「教育」がない恐怖と、スキルの固定化
フリーランスは「即戦力」しか求められません。つまり、「教育」を受けられないのです。 「未経験の技術を現場で学びながら」という案件はほぼありません。そのため、自分が今持っているスキルを切り売りすることになり、意識的に独学を続けないと、技術が陳腐化していきます。 また、 35 歳〜40 歳を超えると、単なるコーダーとしての需要は激減し、 PM や高度なスペシャリストでないと案件が取れなくなる「年齢の壁」も存在します。
向いている人:すでに市場価値が高く、孤独に耐えられる人
- 自分のスキルだけで食っていく覚悟がある人
- 税務処理や営業活動など、開発以外の雑務も苦にならない人
- 常に学び続けられる自律心のある人
まとめ:隣の芝生は青くない。あなたの「フェーズ」に合った選択を

エンジニアのキャリアに、万人に共通する「正解」はありません。

• 安定と大規模を学ぶなら「SIer」
• 技術の幅と実務経験を得るなら「SES」
• サービス志向でビジネスを学ぶなら「自社開発」
• 腕一本で稼ぐなら「フリーランス」
結論として、重要なのは「今の自分に何が足りないか」を知り、それを補える環境を選ぶことです。 もしあなたが今、未経験〜経験浅めのフェーズにいるなら、まずは優良な SES 企業で「実務経験」と「技術の幅」を手に入れ、そこから自社開発やフリーランスへステップアップするのが、最もリスクが低く、確実な「勝ち筋」と言えるでしょう。
SES 企業還元研究所では、あなたのキャリアフェーズに合わせた最適な企業の選び方や、市場価値診断を行っています。迷っている方は、ぜひ一度ご相談ください。















