「SIerが終わってる」ってどういうこと?その理由【全5選】を徹底検証!
「SIerはもう時代遅れ」「SIerからは成長できない」——IT転職活動を続けていると、こういった言葉を耳にするケースがしばしばあります。かつては日本のIT産業を支えてきたSIer(システムインテグレーター)ですが、今や若手エンジニアや技術者を中心に、その将来性に疑問の声が集まっています。本記事では「SIerが終わっている」と言われる背景にある構造的な問題を5つの観点から徹底的に掘り下げます。
そもそもSIerとは

SIer(エスアイヤー)とは、System Integratorの略で、企業や行政のITシステムの設計・構築・運用などを請け負う企業のことを指します。顧客の要求に応じてシステム開発を行い、必要に応じて複数のベンダーや技術を組み合わせて、トータルでITソリューションを提供するのが役割です。
日本ではNEC、富士通、日立、NTTデータ、TISなどが大手SIerとして知られ、主に大企業や官公庁を顧客に持ち、基幹システムの構築や運用を担っています。
仕事の範囲は多岐にわたり、要件定義や設計といった上流工程から、開発・テスト・保守といった下流工程まで幅広く対応するのが特徴です。
SIerは日本と韓国にしかいないって本当?

SIerという業態は、実はグローバルに見ると少数派です。欧米諸国や中国では、企業が自社のプロダクトやシステムを内製するのが一般的であり、IT部門はビジネスの中核を担う存在です。
しかし、日本や韓国では「ITは外注するもの」という意識が長く根付いてきました。その結果、クライアント企業が自社内にエンジニアを抱えるよりも、外部のSIerに丸投げする構造が出来上がり、業界全体に中間搾取や意思決定の遅さといった問題が根付いてしまいました。
韓国では近年、内製化への転換が進みつつありますが、日本では今も多くの大手企業がSIer依存を続けています。
SIerはエンジニアから今どう見られているのか?

かつては「安定した職場」「日本のITインフラを支える存在」として評価されていたSIerですが、今ではエンジニアや学生からの評価が大きく変わっているケースもあります。
現代のエンジニアは、自らコードを書いてプロダクトを作り出すことや、ユーザーとの距離が近い開発環境を求めています。一方で、SIerでは要件定義や進捗管理といった非技術業務が中心になることも多く、コードを書けないまま数年が経過することも珍しくありません。
また、技術選定やプロジェクト推進に裁量がない、エンドユーザーの顔が見えない、現場での学びが少ない、といった要素も若手からの不満につながっています。実際、就活生向け掲示板では「SIerは避けたい」といった声も一部見られています。
実際の口コミやエンジニアの言説例

以下は、転職サイト、エンジニア向けSNS、技術ブログなどから集まったSIerに対する口コミや言説の一部です。
- 「3年間でコードを書いた経験がゼロ。ずっとExcelとメールばかり」
- 「技術の提案をしても、上司が古い価値観で却下する」
- 「プロジェクトが大きすぎて、自分の仕事の価値が見えない」
- 「AWSやGCPに興味があるのに、オンプレ主義で触れられない」
元SIer出身者が「転職して成長できた」「Web系に来て成長できた」とSNSで語るようなケースが増えており、キャリアの初期にSIerへ入るリスクが一部では共通認識になりつつあります。
SIerが終わっていると言われる理由5選

ここからは「SIerが終わっている」と言われる背景にある、構造的・文化的な問題を5つに分けて解説します。これらは単なる個人の不満ではなく、業界全体に共通する課題として多くのエンジニアから指摘されているものです。就職先・転職先としてSIerを検討している方にとっても、何が問題視されているのかを正しく理解することは非常に重要です。それでは、具体的にどのような点が問題なのかを見ていきましょう。
1. 技術革新に対して組織が鈍重で、モダン技術に対応できない
SIerは大規模・長期のプロジェクトが中心で、レガシーなシステムに継続的に関わる構造になりがちです。たとえばオンプレミス環境や旧式のJava・COBOLといった言語が今も現役で使われており、クラウドネイティブやマイクロサービスといったモダン技術に触れられないケースも多くあります。
また、変化を嫌う企業文化や階層的な承認プロセスにより、新技術導入までに時間がかかりやすいのも問題です。結果として、エンジニアが時代遅れの環境で働くことを強いられ、キャリアの市場価値を高めづらいという構造的な課題が生じています。
2. 保守・運用が中心で、技術的チャレンジが少ない
多くのSIerが担うのは、既存システムの維持・運用です。新しいプロダクトをゼロから作る機会は少なく、決められた仕様書に沿って運用・保守を繰り返す日々が続くことも多々あります。
このため、先端技術に触れる機会がほとんどなく、「キャリアが停滞する」「業界での市場価値が落ちる」といった不安を抱えるエンジニアも少なくありません。
3. ウォーターフォール型開発が中心となっており、変化の多い領域では不向き
SIerの多くが今も採用しているのが、ウォーターフォール型の開発手法です。要件定義から設計、開発、テストと直線的に進めるスタイルは、変化の多い現代のIT環境に不向きです。
一度決めた仕様がなかなか変えられず、現場では「ユーザーのニーズに応えられない」「納品したときにはもう古い」などの課題が頻出。スクラムやアジャイルに対応できる企業との技術力の差が開きつつあります。
4. プロジェクトマネジメントが重視されすぎて“技術力”の成長が二の次になりやすい
SIerでは、要件定義や顧客対応、進捗管理といったプロジェクトマネジメント能力が強く評価されがちです。特に上流にいるPMやSEほど「管理の上手さ」や「報告力」が重視され、実際の技術的スキルに対する評価は相対的に軽くなる傾向があります。
この構造により、若手や中堅の技術者も「マネジメントに進まないと評価されにくい」という認識を持ちやすく、現場で手を動かし続けたい“技術志向のエンジニア”にとってはキャリアパスが見えにくくなる問題があります。
5. 若手が成長しづらい環境と、“技術者軽視”の組織文化
SIerには、いまだに年功序列や形式主義が色濃く残っており、若手が早期にチャレンジできる機会が乏しいのが実情です。現場よりも管理職が重視され、コードを書ける人より「マネジメントが得意な人」が評価される風土が存在します。
そのため、「現場で技術を極めたい」という志向を持った若手ほど評価されにくく、Web系やスタートアップへと流出する傾向が強まっています。
SIerにも終わっていない企業の見極め方

すべてのSIerが「終わっている」わけではありません。近年では、旧来のモデルから脱却し、モダンな技術や開発手法を積極的に導入するSIerも現れています。以下では、成長性・技術力・働きやすさの3つの観点から、”終わっていない”SIerの特徴をより深掘りして紹介します。
1. モダンな技術スタック・アーキテクチャに対応しているか
現代の開発現場では、クラウド(例えばAWSやGoogle Cloudなど)や「コンテナ」と呼ばれる仕組み(アプリを安全かつ効率的に動かすための箱のようなもの)、自動化されたテスト・配信の流れ(CI/CD)といった技術が主流になっています。
こうした技術に対応している企業は、古いやり方にとらわれず、効率的で柔軟な開発を重視していると考えられます。たとえば、クラウド上でシステムを構築したり、毎日の作業を自動で行えるように工夫している会社は、モダンな環境にある証拠です。
2. 内製支援・共創型モデルを志向しているか
顧客企業と長期的なパートナーシップを築き、「言われたものを作る」から「共に課題を解決する」スタンスをとっている企業は、エンジニアにとってもビジネス視点が育つ良質な現場です。
また、プリセールスや要件整理の段階からエンジニアが入り込み、コンサルティング的な価値を発揮できるかどうかも重要です。
ただし、ものづくりに直接関わりたい / コーディングがしたいといった方にはポジションによって物足りなさを感じる可能性があるため注意が必要です。
3. エンジニアの裁量・評価制度が透明であるか
若手にも設計や技術選定の裁量を与えている企業は、挑戦と成長のサイクルが自然と回ります。反対に、年功序列や官僚的な承認フローが厳しい企業は、技術的な挑戦を阻害しがちと言えるでしょう。技術スキルが定量的に評価され、昇格や報酬に反映されているかどうかも確認したいポイントです。
4. 技術広報・コミュニティ活動が活発であるか
自社の技術ブログ、登壇実績、オープンソースへの貢献などを通じて、技術的なアウトプットを重視している企業は、技術文化が根付いている証拠です。
また、社外カンファレンスに登壇する社員が多い企業は、組織としての技術レベルも一定水準を満たしている可能性が高いです。
5. 組織構造・経営体制がエンジニア主導であるか
CTO(Chief Technology Officer)やVPoE(Vice President of Engineering)が経営に関与し、技術的な意思決定を現場と連動させている企業では、エンジニアの声が届きやすい環境が整っています。
さらに、プロジェクトマネージャーとエンジニアが対等に議論できる文化があれば、納期や品質への一方的な圧力も緩和されやすいです。
6. キャリアパスと学習支援が整備されているか
技術職としての専門性を磨くキャリア(スペシャリスト型)と、マネジメント職を目指すキャリア(ゼネラリスト型)が明確に分かれている企業は、エンジニア自身の志向に合わせた成長が可能です。
また、書籍購入補助、勉強会の実施、資格取得支援制度など、学習意欲を支援する制度があるかもチェックポイントです。
以上のような観点を踏まえて企業分析を行うことで、SIer業界の中でも将来性のある、技術者にとって魅力的な職場を選ぶことができます。
まとめ

「SIerが終わっている」と語られる背景には、多重下請け構造によるエンジニアの評価の歪み、旧態依然とした開発手法、そして技術者のキャリア成長を阻む組織文化など、数多くの構造的課題があります。確かに、過去の成功体験にとらわれ、変化への対応が遅れている企業も存在します。しかし一方で、現代の技術トレンドにキャッチアップし、若手エンジニアに裁量を与え、内製化や顧客共創に積極的な“進化するSIer”も存在しています。
重要なのは「SIer=悪」と短絡的に判断するのではなく、自らが何を重視するかを明確にし、その価値観に合致する企業を見極めることです。エンジニアとしての成長環境を見つけたいなら、組織の開発文化、経営陣のスタンス、技術スタックの柔軟性まで含めて企業を評価する目が求められます。
本記事が、SIerに対する見方を整理し、より良いキャリア選択に向けた一助となれば幸いです。