SES還元率研究所の公式アカウントに、一通の生々しいDM(ダイレクトメッセージ)が寄せられた。
「終電を逃したタクシーの中で、毎日『IT 転職 20代』と検索していました」
送り主は、かつて都内のSES企業で客先常駐として働いていた20代の元エンジニアだ。新卒で入社し、月100時間の残業をこなしながらも年収は320万円。現在はSaaS企業の営業職へと異業種転職を果たし、年収700万円を実現しているという。
当研究所では、彼から寄せられたこの貴重な実体験に基づく体験談を、独自のルポルタージュとして再構成した。現在、SESの過酷な労働環境に疲弊し、キャリアに悩むエンジニアにとって、彼の軌跡は一つの明確な「生存戦略」となるはずだ。
IT業界を辞めたいと思った瞬間——SESで迎えた限界の夜

深夜2時のサーバールームで折れた心
「正直に言うと、私はITの仕事が好きではありませんでした」
彼は当時をそう振り返る。「ITは将来性がある」「手に職がつく」。親や友人の言葉に背中を押されて飛び込んだ業界だった。しかし、彼を待っていた現実は、誰かが作った仕様書をひたすらなぞる日々。そして深夜のサーバールームでの障害対応だった。
23歳当時、金融系のシステム保守運用に配属された彼は、アラートが鳴れば夜中であっても駆けつけ、原因特定と報告書作成に追われた。ある日の深夜2時、蛍光灯の白い光とサーバーの駆動音だけが響く無人の部屋で、彼はふと思ったという。
「俺、何やってんだろう」
疲労というより、この先も続くであろう未来に対する「絶望に近い感覚」だったと彼は語る。それが、彼にとって限界のサインだった。
給料日に見た「手取り20万」の衝撃
限界を迎えた彼をさらに追い詰めたのは、労働と報酬の圧倒的な不均衡だ。月100時間の残業をこなしても、みなし残業(45時間分)を超えた分は「自己研鑽」として処理され、手取りは約20万円。年収にして320万円だった。
家賃5万5千円のワンルーム、光熱費、食費を差し引けば、手元に残るのはわずか3万円程度。貯金など到底できない現実がそこにあった。
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「ITには将来性がある」という呪い
周囲のWeb系スタートアップで活躍する同期や、「もったいない」と引き留める親の声。彼を最も苦しめたのは、周囲との温度差だった。「自分の感覚がおかしいのか、環境がおかしいのか判断がつかなかった」と彼は吐露する。
しかし、冷静に分析すれば、問題は「IT業界全体」にあるのではなく、彼が身を置いていた「SESの下請け構造」という局所的な環境にあることは明白だ。
20代でIT業界から脱出するために彼が踏んだ全手順
在職中にエージェント3社を並行利用した理由
退職してからの転職活動はリスクが高い。彼は月100時間の残業を抱えながらも、在職中のまま「doda」「リクルートエージェント」「マイナビIT AGENT」の3社に登録した。
複数社を利用した理由は「比較」のためだ。
- doda:IT経験を活かせる異業界の求人を提示し、視野を広げた。
- リクルートエージェント:圧倒的な求人数で選択肢を網羅した。
- マイナビIT AGENT:IT業界内での年収・ポジションアップを軸に提案した。
「IT特化型のエージェントは業界内での転職を勧める傾向が強い。異業界を狙うなら総合型エージェントの併用は必須だ」と彼は力説する。
職務経歴書で「IT経験を翻訳する」技術
彼が転職活動において最も効果を感じたのが、職務経歴書における「スキルの翻訳」である。「SESでサーバー保守をしていました」という事実だけでは、異業界の人事には響かない。
- 障害対応 → 「突発的なトラブルに対する迅速な問題解決能力」
- 客先常駐 → 「異なる組織文化の中でのコミュニケーション・折衝経験」
- 運用手順書の作成 → 「業務プロセスのドキュメント化・標準化スキル」
このように実績を汎用的なビジネススキルへと”翻訳”した結果、当初10%だった書類通過率は60%へと跳ね上がったという。
IT業界から転職したい20代が抱える「3つの不安」

彼自身も抱えていたという3つの大きな不安について、実際の経験に基づくリアルな回答を得た。
不安①:「IT以外で通用するのか」
「IT経験者は論理的に考える力、数字で管理する習慣、ドキュメント作成力がある」——これは面接官から実際にかけられた言葉だという。特にSaaS業界においては、「システムの仕組みを理解している営業」はエンジニアと顧客の架け橋になれるため、極めて希少価値が高い。
不安②:「年収が下がるのではないか」
彼の場合、年収は320万から700万へと大幅にアップした。しかしこれは「個人のスキルが突然上がったから」ではなく、「SaaS業界の給与水準がそもそも高かったから」に他ならない。業界選びこそが年収を決める最大のファクターである。
不安③:「20代で転職って早すぎないか」
23歳で動いた彼は「ポテンシャル採用」の恩恵をフルに受けた。「若いから未経験でも育てられる」という評価だ。これが25歳後半になれば、企業は即戦力を求め始める。「20代前半なら熱意とポテンシャル、後半なら具体的スキルの転用で勝負する。どちらにせよ早く動くべきだ」と彼は語る。
転職から半年。年収700万の裏にあったリアル
数字で見る劇的な変化
| 項目 | 転職前 | 転職後 |
|---|---|---|
| 年収 | 320万 | 700万 |
| 月残業時間 | 100時間 | 20時間 |
| 手取り月額 | 約20万 | 約40万超 |
| 家賃 | 5.5万(ワンルーム) | 11万(1LDK) |
数字だけを見れば完璧なサクセスストーリーだが、現実は甘くなかった。
最初の3ヶ月は「地獄」だった
ITの知識があるからといって、すぐに営業ができるわけではない。テレアポは取れず、商談の進め方もわからない。「転職に失敗したかもしれない」と、帰り道のコンビニで缶ビールを飲みながら自問自答する夜もあったという。
しかし半年が経過し、商談の流れを掴み始めると、持ち前のIT知識が強力な武器になった。クライアントの技術的な質問に即答できる営業として、社内でも存在感を発揮し始めている。
何より一番の変化は「日曜の夜に吐き気がしなくなったこと」だという。「月曜が来るのが怖くない。精神的な変化が一番大きかった」と彼は語気を強めた。
SES還元率研究所からのメッセージ:転職は「逃げ」ではない
「環境を変えることは逃げではない。合わない場所から合う場所に移動するだけの話だ」
DMの最後に綴られていたこの言葉に、すべてが凝縮されている。現在、「IT 転職 20代」と検索窓に打ち込んでは消しているエンジニアがいるならば、まずはエージェントを通じて「自身の市場価値という情報」を取りに行ってほしい。
当研究所では、業界構造の課題を指摘しつつも、エンジニア一人ひとりが適切な評価と報酬を得られるキャリア戦略を今後も発信し続ける。現状に限界を感じているなら、まずは一歩を踏み出し、外の世界の「リアルな数字」を知ることから始めてみてはいかがだろうか。
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