IT業界に長く身を置いていると、必ずと言っていいほど直面するのが「炎上プロジェクト」です。
当研究所の過去の記事でも、炎上案件の「8割」はプロジェクトの立ち上げ時点(契約、計画、体制構築の甘さ)ですでに着火しているとお伝えしてきました。
しかし、今回お話しするのは残りの「2割」の炎上パターンです。順調なスタートを切り、要件定義もスムーズに進み、ユーザーとの関係も良好。「久しぶりに綺麗に成功する」と確信していたプロジェクトに、突如として隕石が落ちてくる。これはベンダー側(現場のエンジニアやPM)では事前に察知できず、対策の打ちようもない、まさに「災害(大災難)」です。
今回は、業界歴25年のベテランPMが実際に経験した「理不尽すぎる炎上プロジェクトのリアル」を解説します。そして、このような企業政治による“ちゃぶ台返し”に巻き込まれた時、エンジニアはどうやって自分の身を守るべきなのか。現場目線で紐解いていきます。
第1章:順調だったプロジェクトに落ちた「小さな違和感」という隕
そのプロジェクトは、珍しく十分な準備期間があり、気の知れたパートナー(SESエンジニア)をアサインできた、最高のスタートを切った案件でした。要件定義も予定通り完了し、基本設計の後半を迎えていました。
しかしある日、クライアントの担当者から夜遅くに届いたチャット。
これらの事例からわかるように、早期離職でもしっかりと理由と次の方向性が定まっていれば、むしろ“動いた人”の方が満足度の高い転職を実現しています。

「ちょっとお伝えしなくてはならないことがあります」
翌週の定例会議で、担当者は突然こう言い出しました。



「他システムとのファイル連携の件ですが、日次のバッチ処理ではなく、最近リリースされた『統合DB基盤』にリアルタイムで連携したいんです。そんなに大変じゃないですよね?」
すでにバッチ連携で合意して進めている上、業務要件的にリアルタイム連携が必要な理由は1ミリもありません。当然、PMは反論しました。「今からの連携方式の変更は工数も跳ねますし、リリース時期にも影響します」と。
しかし、クライアントの担当者は引き下がりません。



「もしPMであるあなたが判断できないなら、恩社の定席(上層部)に話を通すことになります」
完全に言わされている。裏で別の力が動いている。そう確信した瞬間でした。
第2章:理不尽の正体は「役員の手土産」と「企業政治」


なぜ、突然のちゃぶ台返しが起きたのか? 営業や上司からの情報で真相が見えてきました。
- 掌握役員の交代:プロジェクトの管轄役員が、社内で強大な権力を持つ人物に交代した。
- 統合DB基盤の真実:その統合DB基盤は、新役員の肝いりで多額の費用を投じて作られたもの。今後新たに構築するシステムは、すべてその基盤を通すという構想(よくある失敗パターン)があった。
- ベンダー側の忖度:営業や自社の上層部は、その役員を敵に回して今後の案件を失うことを恐れ、リアルタイム連携の前向きな検討を現場に無断で約束してしまった。
つまり、現場のエンジニアたちは、役員の「手土産」と、営業の「忖度」という企業政治の犠牲になり、理不尽な要件を受け入れるしかない状況に追い込まれたのです。
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第3章:増員という名の愚策と、崩壊する現場
追加要件が決まってからの現場は、想像通りの混乱(アンチパターン)に陥りました。
- 既存の有識者を新規タスク(リアルタイム連携)に回す。
- 空いたタスクを新規参画メンバーに振るが、当然すぐにはパフォーマンスが出ず遅延する。
- 結局、元の有識者に大きな負担がかかる。
名著『人月の神話』で語られる「遅れているプロジェクトに人を増やすと、さらに遅れる」というセオリー通りの炎上です。
さらに悲劇は続きます。なんとかスケジュールを死守して統合DB基盤との接続テストに進んだものの、データが一致しない、データロストが発生するなど、原因不明の不具合が連発。クライアントの担当者は「実績のあるDB側ではなく、そっちのアプリの問題だ」の一点張り。
連日の終電、週末出勤。体調を崩して離任するメンバー。PMも心身ともに限界に近づき、「逃げ出したい」と思うほどの炎上のピークを迎えました。
第4章:あまりにも虚しい結末。誰のためのシステムか
その後、どうなったのか。
結論から言うと、不具合の原因は統合DB基盤側で利用していた海外製ミドルウェアのバグでした。なんと、その統合DB基盤にとって、私たちのプロジェクトが「初めて本格的に連携する大型システム」だったのです。可動実績があると言い張っていたのは、データ量の少ない小さな周辺システムだけ。つまり、役員の実績作りのために、未成熟な基盤のテスト台(モルモット)にされたのです。
ミドルウェアのパッチ適用に数ヶ月かかることが判明し、結局リリースは延期。その間、自社の営業は役員にうまく取り入り、別の大きな新規プロジェクトを受注していました。上層部の関心はそちらに移り、私たちの炎上プロジェクトにはもう誰も興味を持っていません。
最終的に、ユーザー部門のしびれが切れ、結局は「当初予定していた夜間バッチ」で運用を開始することに。苦労して作ったリアルタイム連携の機能は、ほぼ使われない“張りボテ”として終わりました。
数字上、ベンダーとしては追加費用をもらって新案件も取れたので「結果オーライ」かもしれません。しかし、現場のエンジニアたちがすり減らした命の時間は、誰にも補償されません。
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研究所の結論:会社が守ってくれないなら、エンジニアはどう動くべきか?


今回のケースのように、会社の上層部がクライアントの「わがまま(ちゃぶ台返し)」を政治的理由で飲み込むことは、IT業界において確実に存在します。
しかし、その後始末(しわ寄せ)をすべて現場のエンジニアやPMに押し付けるのは、絶対に間違っています。
もしあなたがPMやリーダーで、このような理不尽な状況に陥った場合の教訓は以下の通りです。
1. 会社(上層部)からリソースと権力を引き出す
会社として現場に大きな影響が出る判断を下したのであれば、後始末も会社にさせましょう。「この要件を飲むなら、優秀な増員メンバーの手配と、別機能のスコープアウト(機能削減)を上層部からクライアントに交渉してください。それができないなら、私はこのプロジェクトを降りる(別のPMを連れてきてくれ)」と強く要求することです。
2. 自分一人で抱え込まず、即座にSOSを出す
頑張り屋で責任感が強い人ほど「自分がなんとかしなきゃ」と抱え込みがちですが、勝ち筋が見えないまま突き進むのはただの博打です。やばいと思ったら、思考が停止する前に「ヘルプ」を出してください。
そして、理不尽に潰されない「環境」を選ぶこと
会社が現場のエンジニアを守ろうとせず、利益や政治だけを優先する環境に居続けると、いずれ心か体が壊れます。
もし今、あなたが炎上プロジェクトで不毛な残業を強いられていたり、会社の理不尽な方針に振り回されているのなら、「エンジニアファースト」を掲げ、社員のスキルとメンタルを最優先で守る高還元SES企業への移籍を検討すべきタイミングです。
優良なSES企業は、エンジニアに不利な条件(無茶なスケジュールや理不尽な要件変更)を強いるクライアントからは、営業が盾となって撤退(現場からの引き上げ)を交渉してくれます。
自分の身を守るための最大の武器は、「逃げ出せる(転職できる)実力と、正しい環境の知識」です。
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